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← 2 → 美しいお姫さまは王子さまの住む、緑に包まれた国のお隣の国のお姫さまでした。 王子さまは、親の取り決めであっても、お姫さまを大切に思いました。 それは王子さまがお姫さまの美しさや品のよさ、優しく暖かな雰囲気をとてもとても気に入ったからです。 一方のお姫さまも凛々しい王子さまをとても頼もしく感じ、王子さまに一生ついていこうと決めました。 王子さまの国はそれはそれは美しいお姫さまを歓迎し、王子さまの国はそれから3年経った今でも、 とてもすばらしい活躍を遂げ続けています。 王子さまはお姫さまを、姫と呼び、大切に扱い、お姫さまは王子さまをとても恋慕い、敬いました。 でも、歳月を経るごとに、王子さまの心はお姫さまから離れていました。 お姫さまは綺麗です。 いつも綺麗な声で歌を歌い、細くしなやかな指で綺麗な言葉を生み出します。 美しく、まるでガラスのようなお姫さま。 ところがガラスのようなお姫さまはだんだんとガラスのお姫さまに変貌を遂げました。 表情がとても乏しくなってしまったのです。 お姫さまは、昔そんなことはまったくなく、表情豊かな少女でした。 だんだんだんだん、お姫さまは笑わなくなり、なかなくなりました。怒らなくなり、楽しそうでなくなりました。 お姫さまが大好きな歌も、表情を失っていきました。 |
← 3 → 王子さまはとてもとても心配しました。 国で優秀と言われるすべての医者を手配し、お姫さまを診させましたが、 誰一人としてお姫さまの異常を見つけられることができませんでした。 あるとき、王子さまはそんなお姫さまを心配して、こんなお誘いをしました。 「姫、今日は久しぶりに馬にでも乗って2人で話でもしないか。」 「えぇ。」 お姫さまは能面のような無表情で頷きました。 王子さまとお姫さまは馬に乗り、綺麗な緑と花の中で話を始めました。 ところが、王子さまが何を言っても、お姫さまの表情は変わらないままです。 さらに、とても口数もすくないのです。 王子さまはうんざりしてしまいました。 完全にお姫さまに興味を失った王子さまは、お姫さまを放ったらかしにして、 色々な遊びに夢中になりました。 国のためにならない危険な遊びも、王子さまにはとてもいい刺激になって、 ますますお姫さまとしゃべらなくなりました。 |
← 4 → お姫さまはとてもそれを寂しく思い、王子さまに必死に話しかけました。 「ねぇ、フィリップ。今日お花を摘んだのよ。わたくし、この花がとても好きだわ。」 「あぁ、わかったよ、姫。だからもう寝かせてくれ。僕は疲れているんだ。」 王子さまは段々と、相変わらずの無表情で自分に話しかけてくるお姫さまを鬱陶しいと思うようになりました。 そこで、王子さまは罪悪感を感じつつも、お姫さまを離れた小屋に閉じ込めてしまうことにしました。 一週間おきに王子さまはそこを訪れると、お姫さまは決まっておいしいスープを作りました。 「姫。」 「なんですか?」 「美味しい。」 「ありがとうございます。」 王子さまは、無表情ではありましたが距離をとったことでようやくお姫さまの優しさを 受け止めることができるようになったのです。 お姫さまへの愛情は、表情をなくした時点で消えうせてしまいましたが、王子さまの中にまた、 少しずつお姫さまに対する愛情が芽生え始めてきました。 |
← 5 → そうした生活が、1ヶ月続きました。 ある日、王子さまがいつものようにお姫さまに逢いにいき、お姫さまはスープを差し出しました。 「ねぇ、フィリップ。話があるのだけれど、いいかしら?」 お姫さまは王子さまを見つめました。 王子さまはその顔をみて、昔を思い出しました。 どれだけ表情を失っても、美しさは変わりませんでした。 王子さまは無償にお姫さまを愛しく感じました。 「なんだい。」 お姫さまの話が終わったら、お城に戻ってくるように言おう、そう王子さまは心に決めました。 「あのね、フィリップ。わたくしね、名前を呼んでほしかったの。」 「名前?」 「えぇ、わたくしの、名前。」 王子さまは不思議に思いました。 お姫さまの名前は確か……、王子さまは気づきました。 お姫さまの名前を覚えていないことに。 姫、と呼び続けた王子さまは忘れてしまったのです。 「わたくし、フィリップの望む姫でしょうか。」 「あ…、あぁ、姫だよ。とっても美しいお姫さまだよ。」 「でも、わたくしは…。」 |
← 6 → ごほごほ…、お姫さまは口を手でおさえ、苦しそうに眉間にしわを寄せました。 王子さまは気づきました。 お姫さまのその白い手に、赤い液体が滴っています。 「姫?姫!?」 王子さまはお姫さまに駆け寄り、その細い肩を抱きました。 お姫さまの愛用していた香水が、ふんわりと鼻に届いて、王子さまは思いました。 こんなに近くで、お姫さまの香りをかいだのは久しぶりだと。 場違いなのはわかっていても、こみ上げてくる懐かしさやせつなさを抑えきれず、 思わず王子さまは立ちすくんでしまいました。 「わたくしは…女なの…です…。姫として…最愛のあなたに愛されても…、 女としての…わたくしは満たされません。」 お姫さまの言葉や香りや綺麗な手の血が、王子さまを混乱の渦へと招きます。 王子さまは何も言うことが出来ませんでした。 「ごめんなさい。フィリップの姫になりきれなくて、ごめんなさい…。」 |
← 7 → お姫さまの体から力が抜けて、王子さまの腕の中に倒れこみました。 お姫さまはとても綺麗な顔をしていました。 そしてその綺麗な綺麗な顔は、王子さまの記憶を引っ張り出すことに成功しました。 「姫……、お、オーロラ…。オーロラ!」 お姫さまの名前はオーロラでした。 その時、お姫さまの顔が、笑顔になったように、王子さまには思えました。 その笑顔は、本当に艶やかで美しく、王子さまはお姫さまをベッドに寝かして、それから、 王子さまは、お姫さまの唇にそっと口付けをしました。 お姫さまの目はあかない代わりに、王子さまとお姫さまは見つけることが出来ました。 最後に、愛を |
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